SPSノウハウのページ

(工事中)このページはブログ形式で掲載したSPSノウハウの複製です。現在作業中です。全記事は「技術日誌」のページの古い方にあります。

ここではSPS実験の操作におけるこつや工夫を紹介しています。


セットしたダイ用のホルダー

 ダイに試料をあらかじめセットしておいてSPS室に行って即焼結を始めたいということがあります。実験室の方がいろいろ揃っているので,あらかじめセットしておきたいと言うこともあるでしょう。あるいは,よその機関のSPS装置を借りるときなど,セットしたものを持って行った方が効率的です。

 私は,下の写真の様に,セットしたダイをホルダーに取り付け移動させています。木材で作ったロの字型の枠の中にセットしたダイを置き,その上に板を切ったものを載せ,さらに1 mm以上の厚さの鉄板を置きます。そして,枠の上部から木ねじで締め付けます。これで結構乱暴に扱ってもセットされたダイはきちんとしています。

 枠は1×2の角材(約1.9 mm×3.8 mm角)と12 mm厚の合板(底面)を用いました。底面にも1×2の角材を用いてもかまいません。その場合,高さが増すので安定感は減じます。上下4カ所ずつねじ止めします。上下の木材のねじ部分はφ5の穴を開けましょう。木ねじがするすると通るようにします。理由は私の作ったYoutubeをご覧下さい。

垂直の木材のねじが入る部分はφ2の下穴を開けておくとねじ留めがスムーズになります。最後に垂直に木ねじを挿せばできあがりです。ダイの上側を押さえる板切れを用意しましょう。板切れだけだと上から締め付ける木ねじが刺さってしまいます。厚さ1 mmくらいの鉄板も用意します。ここでは,棚用アングルから切り出しました。

 使った木ねじはこのようなものです。ダイを押すための木ねじは65 mm長のものを用いました。ねじの頭付近にねじ山のついていないもの(半ねじ)もありますが,全体にねじ山が付いている全ねじがよいです。ちなみに上下の板と垂直の板を留めるねじに半ねじを用いると上下の板のねじ部分にφ5の穴を開けておく必要はありません。


Excelで方眼目盛を作る方法 

 SPSの話題からは脱線しますが,前回の粉体の量を求める図の中で方眼目盛を使いました。この方眼目盛を作る方法を紹介します。(長文ですが,スキルに応じてスキップしてご覧ください)

 たくさんの線を引くにはVBAを使うのが常道のようですが,Excelのワークシート内で方眼目盛を作る方法を考案しました(自己流という意味です)。直線は散布図で引くことができますが,それぞれの線について太さや色を指定しなければなりません。そこで考えたのが,一連の線を一筆書きとすることです。下の図は1 cm間隔の縦線です。データ点(マーカー)は灰色の円で示しています。実際にはデータ点は表示させません。Excelはこれらのデータ点を結んでいきます。縦軸の0と10のところは,一つおきに水平に結ばれています(縦0のところの2-3, 4-5,…,縦10のところの1-2, 3-4,…)。これは残っていると見にくいです。最後に少し太めの枠線を重ねて見えなくします。

 上の例は1 cm間隔の目盛の例です。太い線にするため,線のスタイルは2.25 ptとしました。色はR0,G255,B255としました。水色ですが,少し明るくするにはRの値を増やしましょう。実際には,1 mm間隔の目盛を最初に作ります。この線のスタイルは最も細い0.25 ptとしました。次に5 mm間隔の目盛を作ります。これは,1.25 ptとしました。同様にして横線も1 mm, 5 mm, 1 cmのものを作ります。最後に枠線として(0,0), (10,0), (10,10), (0,10), (0,0)を結ぶ線を作ります。これは枠上の水色の線を隠すため黒色の3 ptとしました(水色でもかまいません)。これで方眼目盛ができました。


 縦線1 mm間隔の線のデータは左1列(x)と2列(y)です。目盛の位置が0.1, 0.1, 0.2, 0.2という様に,xの最小間隔(_xstep)で2つずつ置かれています。ここでは,下に10, 10(横軸の最大値;縦線は横軸を示す)まで並んでいます。2列目は,[y軸の最大値,0,0,最大値]の4つ単位で同じものが並んでいます。

縦線5 mmは,5 mm間隔の線のデータです。1 間隔(5 mmの線の間隔は_xstep*10)で2つずつ置かれています。その右は[0,y軸の最大値,y軸の最大値,0]の4つの単位で同じものが並んでいます。0とy軸の最大値が縦線1 mmの場合と逆になっていますが,どちらでもかまいません。横軸の最大値まで続いています。

縦線10 mmは,10 mm間隔の線のデータです。1間隔で2つずつ置かれています。その右は上と同様です。

 横線1 mm, 5 mm, 10 mmについても上と同様です。

 右端に枠用があります。長方形の四隅の座標が右回りで一周り書かれています。

 上の様な値を1つ1つ入れるのは大変に手間がかかります。Excelの数式を使うと容易です。例えば縦線1 mmのデータの左の列が0.1, 0.1, 0.2, 0.2, 0.3, 0.3,…となっています。各数値が2つずつ,それらが0.1(_xstep)ずつ増えていっています。最初の2つは始めの値0.1(_xstep)を入れてあります。その次の行は

=IF(F8=F9,F9+_xstep,F9)

となっています。これは,上の行とその上の行が等しければ(例えば0.1, 0.1)増分だけ増やします。また,等しくないときは,2つずつあるデータの内の2番目ですから,一つ上の値を入れます。このセルは以下の行にずっとコピーします。F8とかF9は自動的に変わります(F9, F10のように)。このコピーは値が10(_xmax)が出るまで行います。適当にコピーしてみて,最下行が10未満でしたらコピーを更に増やし,10を超えた場合は,その分は削除します。

 縦線1 mmのデータの右の列は,10(_ymax), 0, 0, 10(_ymax)が繰り返されています。この4行を下の方にコピーを繰り返します。ある程度コピーしたら,それらをまとめてコピー&ペーストすると効率的です。

 縦線5mmの左側については,最初の2行は_xstepの5倍です。3行目の増分は10(_xstep*10)となっています。右側は上と同じです(ここでは気まぐれで0, 10, 10, 0になっています。上でどちらでも良いと書きました)。

 横線については,上と左右が逆になっていることと_xstepが_ystep,_ymaxが_xmaxとなっていることを除けば上と同じです。参考のため,横線1 mm,横線5 mm,横線10 mmの数式を下に示します。

 グラフの作り方を説明します。まず,横線1 mmのデータで散布図(直線,プロットなし)を作ります。線の色,太さを設定しましょう。

 次に,グラフ領域を選択しながら右クリックして「データの選択」を選びます。ここで追加をクリックして,系列X,系列Yに横線5 mmの領域を指定します。同じように,横線10 mm,縦線1 mm,縦線5 mm,縦線10 mm,枠用のデータを追加します。

 以上で方眼目盛が完成しました。私は,新しいシートにグラフを移し,そのシートにて,この方眼目盛上に実際のプロットを行っています。


花子で作った方眼目盛をExcelの図に重ねたら

「目的の厚さの焼結体を得るための粉体の量を求める図」を作る際,グラフに方眼目盛をつけました。その際当初,方眼目盛のビットマップパターンをエクセルの図に重ねることを考えました。しかし,問題がありました。この内容は,「HP作成の舞台裏」で述べました。下記URLをご覧下さい。


目的の厚さの焼結体を得るための粉体の量を求める図

 ダイに試料を充填するとき,何g充填すればよいか,しばしば迷うものです。そこで,目的の厚さにするのに必要な試料の重量を求める図を用意しておくと便利です。必要な試料の量は,パンチ径と試料の真密度(SPSではほぼ100%の相対密度が実現されるので,単結晶の密度としてよいです)に依存します。そこで,Excelにて,それらの値を入れると図ができるようにしました。C3セルにパンチ径(直径,cm)を,C4セルに試料の真密度(g/cc)を入れると,グラフがそれに合わせて変わります。研究室では試料の種類とパンチ径はそれほど変わるものではありませんので,グラフは1つか,あるいは2,3枚で済むと思います。

 印刷は,先ずグラフの領域を一度クリックします(それによりグラフが選択されます)。そして,[ファイル]→[印刷]とすると,グラフのみが印刷されます。

 Excelファイルは下記URLからダウンロードしてください。

(横軸,縦軸の範囲を変更したい場合は,ご相談ください)


ダイに試料を充填するとき薬包紙の漏斗を使おう

 ダイに粉体試料を入れるとき,慎重に行わないとダイの縁にこぼれてしまうことがあります。これをかき寄せて穴に入れると,ダイのカーボン粉末も混じってしまい,焼結体中にカーボンが残ってしまいます。私は薬包紙で作った漏斗を使って粉体を充填しています。これであまり気を遣わないで簡単に粉体をダイ中に入れることができます。もちろん薬包紙漏斗は使い捨てです。


 薬包紙漏斗は,薬包紙を片側が狭くなる様に丸めて1,2カ所をセロテープで留めて作ります。この漏斗を作るとき,下の写真の様な型に巻き付けてつくると楽です。この型は,パーティー用のクラッカーを使って作りました。クラッカーに印刷用紙を巻き付け,端をセロテープで留めました。そして,クラッカーを外し,中にグルーガンのグルーを流し込みました。型としては,固まったグルーだけを取り出す必要はありません。印刷用紙ごと薬包紙漏斗の型として使います。


仮プレスに木工用万力を使う

 セラミックスを型に入れてプレスするのに,一般的には油圧プレスを用います。しかし,簡易的にプレスするには大げさであったり,荷重をかけすぎたりしてしまうことがあります。軽くプレスするのに木工用万力が便利です。下の写真のようなものです。これはクランプが付いていて,作業台等に簡単に取り付けたり外したりできるようになっています。ものを挟む所は,木材が付いています。レバーを手で回すことにより,微妙な弱い力を加えることも可能です。また,100 kgf程度(1 kN程度)の挟む力も出すことができます。


 どこにでも取り付けられるので,このように挟む面を水平になるよう取り付けることもできます。これで簡単なプレス機となります。木工用万力に付いている木材を保護するために,ここに示したように,プレスするダイの上下には板を挟みましょう。この写真では,下側がベークライト板,上側が合板(木材)となっています。


上下にスペーサーを入れて仮圧縮しよう

 先に「スペーサーは偶数個作って下さい」と述べました。粉体充填後次のような方法で仮圧縮すると試料が中央部にセットされます。

 下側に複数のスペーサーを入れて粉体を充填します。スペーサーの厚さの合計は,粉体を軽く手で押したときに試料が中央部にするのに必要な量とします。

 次に,重ねたスペーサーの1つを取り外し,上側に同じ量のスペーサーをセットします。そして,プレスします(プレスには木工用万力を使っています。これについては,次の記事をご覧下さい)。これにより試料が中央になりある程度プレスされたものができます。さらにスペーサーを上下1枚ずつ外し,同じようにプレスします。これを仮プレスト呼ぶことにします。私は仮プレス(SPSにかける前にあらかじめプレス)として,100 kgf程度加えています。φ12のパンチに対して10 MPa程度になります。スペーサーを外してプレスする操作は繰り返し,それ以上縮まないところまで行います(実際には1,2枚外せばそうなります)。


デルリン棒を用意しよう

 ダイに粉体を詰めた後,粉体を均(なら)しましょう。グラファイトパンチを回転しながら挿していってもできますが,試料にカーボンのコンタミが起こりやすいです。私はデルリン(ポリオキシメチレン,POM)の棒を用いています。パンチと同じ径のものを購入しましょう。面は軸に対して垂直である必要があります。数センチのものは購入できないので,私は最低長さのものを購入した後,カナノコでおおざっぱに切断し,低速カッターで垂直な面を出しました。


粉体充填用スペーサーを作ろう

 粉体試料をダイに充填するとき,最終的に試料がダイの中央付近になるようにするため,下の図のようにパンチを少し下げた状態で充填したいものです。このままでは,シリンダーが重みで下がってしまいます。通常は近くにある何かを探して挟んでいるものと思います。私も昔はそうしていました。


 私は現在,下の写真のような“コの字型”のスペーサーを用意しています。材質はプラスチック類が良いですが,木材でも大丈夫です。私はある目的のため,何種類かの厚さのベークライト板をもっていたので,それらを加工しました。木の板や合板でも良いでしょう。薄いものはプラスチックのカードケース,OHPフィルムなどを使いました。写真中コの字型に切り込みの入っていないほぼ正方形のもの(一番右)は,台用です。厚めのものを使いましょう。またそれぞれの厚さのものは偶数個作っておいてください。その理由は後でわかります。


 正方形の台を一番下に置き,シリンダーの位置が適切になるよう,1枚または複数のコの字板を組み合わせて使います。


 こんな感じです。このスペーサーはここに示したような役割だけではなく,さらに高度な使い方ができます。今後の記事に乞ご期待。


カーボンペーパーがダイとシリンダーの間のクリアランスに入らない場合 

 パンチを差し込む外側の部品は通常,ダイと呼ばれるらしいが,ここでは,シリンダーと呼び,パンチとシリンダーのセットをダイと呼ぶことにしています。カーボンペーパーを挟む場合,シリンダーの穴の径はパンチ径より0.4 mm大きくなっています。片側0.2 mmで,カーボンペーパーの厚さになっています。しかし,パンチ,シリンダーの加工精度により,時としてカーボンペーパーを巻き付けたパンチをシリンダーの穴に差し込むことができないことがあります。強引に入れると下の写真のようになってしまいます。


 この対策は,カーボンペーパーを薄くすることです。これはプレス機を用いて簡単に行えます。カーボンペーパーを押しつぶすのです。そのとき,押した面の粗さがカーボンペーパーに転写されてしまいますので,平らなものが必要です。新しいグラファイトスペーサーを用いると良いです。先ず,グラファイトスペーサーの上にカーボンペーパーを載せます(下写真左)。そして,もう一つのグラファイトスペーサーをその上に載せ(中央),数百kgf程度の荷重をかけます。そして取り出します(右)。荷重により薄くなり方は変わりますので,緩くなりすぎない程度の荷重を探します。


 最初に示したダイについて,このようにうまくカーボンペーパーを挟むことができました。


円形カーボンペーパーの切り出し方

 この方法は,多くの方がやられていると思いますが,そうでない方のために,掲載します。私どもも当初はカーボンペーパーにパンチを当ててパンチの外周をなぞり,それをはさみで切り出していました。ポンチ(穴抜きパンチ)を知ってから円形カーボンペーパーの切り出しが速く,しかもきれいにできるようになりました。

 ポンチにはいろいろなサイズがありますので,カーボンパンチに合ったものを手に入れることができます。直径12 mmが,40号,15 mmが50号で,0.3 mm刻みであるそうです。

 ポンチは,穴抜きしたいものに当て,金槌でたたいて開けるのが一般的です。カーボンペーパーは柔らかいので,そんな必要はありません。カッターマットの上にカーボンペーパーを置き,上からポンチを当て,ポンチの歯の部分がカーボンペーパーから離れない程度に円を描くように力を円周のすべてにかけます。当初,ポンチを回転させてみましたが,ずれてしまいよくありません。この方法がお勧めです。

 なお,カーボンペーパーは,ダイとパンチの間に入れる長方形のものを切り出した半端を使うようにします。


カーボンペーパーの切り出し方 

 グラファイトダイのシリンダーとパンチとの間にカーボンペーパーを入れてSPSをすることがしばしば行われます。私は,最初の頃カーボンペーパーに物差しで印を付け,はさみで切り出していました。円周方向は少し長めに切り出しておいて,実際にパンチに巻き付け,重なった部分を指で押し印を付けてはさみで切りました。

 現在行っている私の方法を紹介します。

 先ず,このような方眼パターンをトランスペアレントシートに印刷します。端部は印刷されませんので,cmの太い線のところで切っておきます。赤い線は私がよく使うφ12とφ15の円周です。

 カーボンシートはあらかじめシリンダーの高さの幅で切っておきます(これも,これから説明する方法で切り出すことができます)。そして,端部(手前)を円周の長さの所(上で述べた赤い線)に合わせます。次に,トランスペアレントシートの端部にスチール定規を当てます。スチール定規を指で押さえ,トランスペアレントシートを取り除きます。

 そして,スチール定規に合わせてカッターナイフで切り出せばOKです(ここでは,撮影の都合上-左手でシャッターを押すため-スチール定規を押さえていませんが,実際には押さえます)。切り出したカーボンペーパーをパンチに巻き付け長さを確認します。調整が必要なら,次に切り出すとき,赤い線よりずらして合わせます。パンチに巻き付けたときの長さの過不足を覚えておいて感でずらすだけでうまくいきます。

方眼パターンを下記URLに用意しました。ダウンロードしてご利用ください。


目的の圧力得るには荷重をいくらに?

 目的の圧力にするためには,荷重をいくらにするかその都度計算するのも面倒です。下の図を印刷してSPS室に常備しておくと便利です。

 使い方は以下の通りです。

パンチの直径(cm単位)を二乗して,右側の目盛の位置を圧力110 MPaの線上に点を打ちます。そこと原点とを結ぶと,そのパンチに対する圧力と加重との関係が得られます。よく使われるパンチの線はすでに引いてあるので,その場合は加筆する必要はありません。そして,横軸上の得たい圧力に対応する縦軸の荷重を求めればよいのです。

 印刷用ファイルは以下からダウンロードして下さい。


ダイとパンチの電気的接触は?

 絶縁体の試料をSPSするときの直流経路は下の図のようになります。ダイにパンチを差し込むために,パンチの直径はわずかに小さくなっています。それでは,パンチとダイとの電気的接触はどのようにして確保されるのでしょうか。

 それは,物質の持っているポアソン効果によるのです。パンチに縦方向の圧力(SPSのプレス圧力)が加わると,ポアソン効果により,パンチは圧力方向につぶれるだけではなく,それに垂直方向に太ります。

 それにより,パンチはダイを押しつけるように広がり,電気的接触がしっかりと保たれるのです。

 SPSの最中に圧力を下げると温度は下がるでしょうか,上がるでしょうか。正解は,“上がる”です。圧力を下げるとパンチのダイを押しつける広がり方が少なくなります。そのため,電気的接触が弱くなり,接触抵抗が高くなります。SPSは電流を制御しています。同じ電流では,接触抵抗が大きい程ジュール熱は大きくなります。Pow=R×I^2(Rは接触抵抗,I^2は電流の二乗)ですので。もちろん温調器がありますので,一時的に温度が上昇した後,元に戻ります。圧力を上げたときはこの反対で,一時的に温度は下がります。


放射温度計が突然OFFになる。

 この放射温度計は汎用のもので,手に持って測定するときのために電池でも動作します。電池での動作の際,切り忘れても電池を使い切らないように一定時間何の操作もないと自動的にOFFになる機能があります。SPSの温度測定では先に述べましたように,電源アダプタを通して電気を供給しています。その場合は自動OFFの機能は不要ですが,この温調器は,それでも自動OFF機能が働いてしまいます。自動OFFの機能を止めるには,放射温度計をONにするとき,MEASUREのボタンを押しながらON/OFFスイッチを押して行います。

 あるとき,上記のようにしながら放射温度計をONにしたにも関わらず自動OFF機能が働いてしまいました。これは大変好ましくないことです。例えば1000℃でコントロールされているところで自動OFF機能が働くと,温調器は6百なにがしの温度になったと判断します(不感領域では570℃くらいですが,OFFのときは600℃ちょっとの温度と検知されます)。すると温調器は「温度が低すぎる」と判断して大電流を流させます。これは装置に悪影響を及ぼします。

 最初は「放射温度計をONにする際,MEASUREボタンを押しながらするのを忘れた」のかと思いました。しかし,何度か同じことが起こりました。原因はMEASUREボタンの接触不良でした。強く押すと大丈夫のようでした。温調器も古くなってくるとこのようなトラブルも起こすことを記しておきたいと思います。


放射温度計の電池

 このブログの最初の方で,「久しぶりにSPSを使おうとしたところ…」という記事がありましたが,その頃の話です。その前に放射温度計が故障しました。その原因はどうやら,入れてあった電池の電液漏れだったようです。SPS装置では,放射温度計には,電源アダプタを通して,外部から電気を供給しています。それにも関わらず,メーカーは“親切にも”,SPS装置を納入するとき放射温度計に電池を入れてくれているのです。先の記事のように,タイマーによるOFF機能も不要のものでしたが,これも不要のものです。放射温度計が修理から戻ってきたものにも新しい電池が入れられていました。電池は外しておきましょう。


SPS タイマー

 今では私どもは30分以内で高透明度の透明YAG焼結体を作れますが,先行研究では下の昇温プログラムのように長時間が必要とのことでした。このプログラムでSPSを実行したところ,途中でポンと(そんな音がしたわけではありませんが)OFFになってしまいました。これまで私どもはこんな長時間のSPSをしたことはありませんでした。

 OFFにした犯人はSPSタイマーでした。温調器では分単位の表示しかありません(設定により秒単位の表示も可能になりますが,時間上限が下がってしまいます)。そのため,秒単位は,タイマーの表示を見ていました。そんなわけで,習慣的にSPS ONと同時にタイマーをONにしていました。このタイマーは設定時間(下の写真では9959=99分59秒になっています)が経過するとSPSをOFFにする働きがあります。そのため,99分59秒を経過したときにSPSがOFFにされたのです。このタイマーは何のためにあるのか私は疑問です。計画的にOFFにするのは,温調器の設定で十分だと思うからです。

 対策としては,タイマーを使わないことです。ただ,上に述べたように秒単位の表示を見るのには便利です。上の写真にタイマーOFFのボタンがあることがわかります。長時間SPSでは途中でタイマーをOFFにした後,再度ONにすれば良いのです。その間隔は99分59秒以内であれば大丈夫です。当初,タイマーのOFFボタンを押したらSPSも中断してしまうのではないかと心配していました。しかし,その心配は無用でした。OFFボタンを押してもSPSはOFFにならないので,昇温プログラムの切れの良いところでOFF-ONをすればよいです。


ギャランティーソーク:放射温度計の不感域をスマートに処理

 放射温度計では,600℃以下(私どもの所では578℃でした。以下,この温度を用いて説明します)は測れません。したがって,SPSでは,578℃になるまでは暗闇を歩くような温度コントロールとなります。放射温度計の出力は幸いにも,不感温度域では,この温度(に相当する電圧)を出力しています。もし,不感温度域で0℃を出力していたとすると,SV(セット値)はどんどん上がっていくので,SPS電流がとんでもなく大きくなり,装置が壊れてしまう恐れがあります。幸いなことに,不感温度域では,578℃(に相当する電圧)を出力しています。したがって,一定時間SV値を600℃にしておくと,温調器は,「現在578℃で,設定温度は600℃なので,少しだけSPS電流を流しておく」と判断します。この“少しだけ”の電流がほぼ100℃/minの温度上昇をもたらします(あるサイズのダイに対する私の経験では,570℃から5分かけ600℃に上げるようにプログラムするとほぼ100℃/minになりました)。

 さて,ここで多くのSPSユーザーが悩まされている問題があります。それは,上のような設定(600℃まで5分)で,5分経過しても600℃に達しなかった場合です。5分経過すると,温調器は次のステップに移り,100℃/min(これは,実験により異なりますが,標準的な値を例にして話をしています)でSV値がどんどんと上昇して行ってしまいます。しかし,放射温度計の出力は570℃のままですから,温調器は大きな出力を出してしまいます(下図,赤矢印)。それにより急激にダイの温度が上がります。放射温度計は有感温度域に入り,温調器は慌てて出力を下げます。それも下げすぎで,結果として下の図のように実際の温度が急激に上下振動をします。

 この対策は,温調器のギャランティーソークの機能を利用することです。ギャランティーソークは,実際の温度(PV)と設定温度(SV)との差が許容範囲以下になるまで,次のステップに進むのを待つ機能です。たとえばステップ1の最終温度を600℃に設定してあり,許容値を2℃としておくと,PVが598℃になるまで次のステップになるのを待ちます。そうすればそこから100℃/minで昇温が始まっても実際の昇温が間に合うわけです。

 その設定法を説明します。MODE 2で昇温プログラムの設定が終わった後,SELボタンを押していくとGUARAN SOAKと表示されるところがあります。そして,たとえばSTEP 1からSTEP 2に移る際にPVとSVの差が許容範囲以下になるのを待つには,STEPの番号を01にし,許容値の番号を指定します。ここではNo.7を指定しています。許容値の設定はMODE 6で行います。MODE 6でSELボタンを押してGUARANTY SOAKの表示されるところにします。そして,No.を選びます。上で7を指定していますので,ここでは,No.7の値を設定します。ここで0002となっているのは,許容値が2℃ということです。


真空ポンプを外付けにつないだらガスフローができなくなった

 先に内蔵真空ポンプに加えて拡散ポンプも使えるようにする記事を載せました。その後,内蔵真空ポンプが故障してしまいました。でも,拡散ポンプの荒引きを使えばこれまで通りの真空操作が可能です。内蔵真空ポンプは使わなくなったので,そちらの口をふさいでしまいました。その状態でしばらく使っていましたが,あるときガスフローしようとしたら,ガスが導入できませんでした。調べたら,内蔵真空ポンプの部分から外部ガスを導入するようになっていました。そちらを塞いであるのでガスが導入できなくなってしまったのです。

 そこでどこかガスを導入できる場所を探してみました。連成計につながっているホースを使うことにしました。連成計は下の写真のようなおおざっぱな真空度(加圧領域も計れる)を表示する機器です。

 そのホースを分岐するのに,下の写真のようなプッシュワンYユニオンを用いると便利です。

 そして,下の図のように接続しました。これでガスフローも可能です。

補足事項:外付け真空ポンプの場合,チャンバーを閉じた後,外付け真空ポンプを開にしても,チャンバーの合わせ目から空気が漏れて真空になりません。チャンバーを上げきってた後,モータが止まると少し合わせ目が開いてしまうのです。内蔵真空ポンプの場合,開ボタンを押すと,連動してチャンバーのモーターが1秒程動き,合わせ目が閉じられます。それにより,真空になり,その後は大気圧により閉まったままとなります。

 外付け真空ポンプの場合,このことを手動でやる必要があります。すなわち,外付け真空ポンプを開にしたら素早くチャンバーUPを行うのです。


SPS中に現在のステップをスキップしたり,保持時間を延長したい 

 SPSをしていると,昇温プログラムをちょっと変更したいことが時々起こります。たとえば下のプロセスで青丸の位置から直ちに次の昇温ステップに飛ばしたいとか,緑丸のところですぐにOFFになるところを,保持を継続したいなどです。

 このような要望は,現在実行中の温調器のプログラムを変えてやれば,即そのようになります。しかし,プログラムを変更中に緑からOFFに行ってしまったりします。

 もっと簡単にやる方法があります。温調器のボタンに,青地に白抜きでSTOPとかRUNとかADVとかがあります。青地の機能はFNKキーを押した後に押すと実行できます。ADVというのは,現在のステップから強制的に次のステップに進ませる機能です。FNC-ADV(FNCボタンを押した後にADV)ボタンを押すと,青丸の位置にあった場合,次の昇温のステップに進ませることができます。また,緑丸の位置にあるとき,FNC-STOPボタンを押すと,次のステップ(=終了)へとは進まずにその状態を保持します。STOPというと終了してしまいそうですが,“温調器のプログラムの進行を一時的に凍結する”と言うことです。プログラムの進行を再開させるにはFNC-RUNを押します。

 しかし,実際にボタンを押しても,そうはなりません。なぜでしょう。それは,温調器の後ろの配線がSPS装置に接続されていて,SPS ONにしたとき,温調器のプログラムが連動して開始したり,SPS装置のRESETボタンを押してRESETするなど,SPS装置の方から制御できるようになっているからです。

 温調器後ろの配線の信号にしたがって温調器が動作するか,温調器前面のボタンにしたがって動作するかは,温調器の設定で変更できます。MODE 1のPROGRAM DRIVE SETは通常,MASTER EXITになっています。これは,温調器後ろの配線による外部コントロールが有効と言うことです。この状態では,温調器のRUN, STOP, ADV, RESETのボタンは動作しません。ここの設定をMASTER KEYにしましょう。これで,上に書いたような操作が可能になりました。

 念のため申し添えしますが,この設定下では,SPS-ONにしても,温調器のプログラムはスタートしません。SPS-ONボタンを押した後,FNC-RUNボタンを押しましょう。また,SPS終了後,装置のRESETボタンは働きません。これもFNC-RESETで行いましょう。


チャンバー周りにライト,ファンを付けよう 

 チャンバーの中を速く冷やすのにクリップ扇が便利です。私はチャンバーの外のSPS装置の柱に取り付けて使っていました。また,チャンバー内は暗がりになりやすいです。クリップライトを付けると便利です。LEDクリップライトがそれ自身比較的熱くなりにくいのでお勧めです。これもチャンバーの外の柱に取り付けました。

 ただ,クリップのサイズが小さく,この柱に挟めませんでしたので下の図のように,切り込みを入れた木棒の切れ端をかませてF型クリップ(100均)で留め,そこに挟みました。


拡散ポンプ冷却用ファンと切り忘れ防止回路 

 拡散ポンプの使用を中止するとき,拡散ポンプ内のオイルが充分に冷えるまで真空引きを継続しなければなりません。少しでも早く終わらせるため,拡散ポンプの加熱部をファンで冷やしたりします。SPS終了時にファンを切り忘れても,電源をSPS装置からとっていれば,SPSの電源を切ったときにファンは停止します。しかし,次回SPSを開始するとファンが再び動いてしまいます。うっかりすると,ファンで冷やしながら拡散ポンプを使うようなことにもなりかねません。

 そこで,回路を作りました。その回路とその動作について紹介します。下の写真はその装置の写真です。合板にリレーなどを取り付け,拡散ポンプ装置に取り付けています。電源はSPS装置から引いています。白い押しボタンスイッチを押すとファンが回ります。SPSの電源が切れると,再度電源を入れてもファンは止まったままです。白い押しボタンスイッチを押すまでファンは回りません。また,SPS装置はONの状態でもファンを止めたい事情が生じたときは,黒い押しボタンスイッチを押せば良いのです。

 順を追って回路図を示します。この下の回路図は,一部を省略しています。この状態は,SPS装置をONにした直後の状態です。リレーのコイルには電圧がかからないのでファン用のスイッチはOFFになっています。

 ファン用のスイッチをONにするには,Push-ON SWを押します。このスイッチは白い押しボタンスイッチに相当します。すると,リレーのコイルに電圧がかかり,ファン用のスイッチもONになります。

 Push-ON SWをいつまでも押しているのでは不便です。この回路では,ちょっと押すだけで放してもかまいません。リレーの上側(図で)のスイッチがONになるため,電源の電圧はここを通してリレーのコイルにかかるため,Push-ON SWは放しても同じ状態が継続します。これを「リレーの自己保持回路」と呼びます。

 SPSの電源を切ったときの状態を示します。リレーの上側のスイッチもOFFの状態になります。そして,ファン用のスイッチもOFFになります。もっとも,この時点ではSPSからの電気が来ていませんので,ファンは回りませんが。

 そして,次にSPSを使うため電源をONにしたところです。最初の状態と同じで,リレーのコイルに電圧がかからないのでリレーのスイッチはOFFで,ファン用のスイッチもOFFです。前回終了時にファンのスイッチを切らなくても,この時,ファンが回ってしまうことはありません。

 ここまでで,ファンの切り忘れの機能は実現されました。SPSを使っている状態でファンを切りたいという状況があるかもしれません。そこでPush-OFF SWを増設します。Push-OFF SWは黒いスイッチに相当します。このスイッチは,押したときだけOFFになるというものです。このスイッチを押さない限り,上で説明した動作は同じです。下の図では,一旦Push-ON SWを押して放した状態です。

 ここでPush-OFF SWを押します。すると,リレーの自己保持状態は解消され,ファン用のスイッチはOFFになりました。

 下は,Push-OFF SWを放した時です。ファン用のスイッチはOFFのままです。これは,スタート状態と同じです。したがって,再度ONにするには,Push-ON SWを押せば良いのです。


ピラニーゲージの校正をしよう 

 ピラニーゲージ低真空域での真空度を調べるのに使われていますが,センサの経年変化により時々校正する必要があります。校正は2点で行います。1点は大気圧,もう1点はピラニーゲージでゼロとみなせるような高真空が便利です。後者は拡散ポンプを使えば簡単に得られます。拡散ポンプにより10のマイナス2乗Pa以下にして,ランプの右側のVACのボリューム(時計用ねじ回しで回せます)で,針をゼロに合わせます。次に,チャンバーをリークさせ大気圧にします。そして,ATMのボリュームで1.013×10の5乗(上側の10の目盛の右側の目盛)に合わせます。残念ながらこれで終わりではありません。ATMのボリュームを回すと,VACの調整も少しずれてしまいます。したがって,VACの調整,ATMの調整を何回か繰り返します。


拡散ポンプの冷却をSPSの冷却系からとる 

 当初,拡散ポンプの冷却は,水道水より引き,垂れ流しにしていました。なんとかSPS装置のチラー装置からとれないかと考えていましたが,富士電波工機様からありがたいアドバイスをいただきました。「上側のチャンバーの冷却水の出口に拡散ポンプの冷却系をかませればよい」とのことでした。上側チャンバーの冷却水は青い矢印のようになっています。冷却水は[冷却水入り口]から来て,[流量センサ]へと流れています。実際には黒色のウレタンチューブでつながっています。

そこで,上側チャンバーの水の出口を拡散ポンプ(DP)のインレットに導き,DPアウトレットから戻ってきた水を流量センサへとつながるホースにつなげます。

実は,DPの冷却系のウレタンホースはSPS装置のものより少し太いです。そこで異径ユニオンストレートのジョイントを使いました。このジョイントとDP用のウレタンホースを購入し,ワンタッチで差し込むだけで工事は完了です。


ロータリーポンプの排気はドラフトへ 

 チャンバーを真空引きするとロータリーポンプの排気からオイルミストが煙のように出てきます。このオイルミストを吸い込むと健康上危険です。通常オイルミストトラップを付けますが,それでも排気のはじめには結構でてきます。この排気はフレキシチューブでドラフトまで引いておきましょう。下の写真の青い部分は拡散ポンプ中のロータリーポンプのオイルミストトラップです。その出口にフレキシチューブをつなぎました。出口の径とちょっと異なりますが,シリコンゴムテープを使うのが便利です。これは弾力があり,伸びます。伸ばしながら接続部分にぐるぐると巻き付けます。このテープはのりがついていません。引っ張ると自分自身が貼り付くのです。他とは付かないのでべたべたしません。しかし,巻いた部分のテープが互いにくっつくので一体化してきちんと固定されます。しばらくすると巻いたテープはほどけなくなります。外したいときは,カッターナイフで切ればよいです。取り付けた部分とは接着されていないのできれいに取り外すこともできます。


拡散ポンプの接続 

 SPS装置の内蔵排気装置でも1 Pa程度までの真空は実現できるのですが(我々の装置ではかなり条件がよいときでないと,そこまでは行きませんでした),さらに高真空が必要な場合は拡散ポンプを接続すると良いです。

 よそのプロジェクトで廃棄予定のものがありましたので,いただいてきてオイル交換などをして使えるようにしました。右側にNWフレキシブルチューブが写っています。拡散ポンプの口とフレキシブルチューブのアダプタは特注で作りました。

 さて,SPSの真空チャンバーへの接続法です。このSPS装置では,チャンバーから排気装置まではNWフレキシブルチューブで接続されていました。その部分を分岐して拡散ポンプに接続することにしました。NW-Tチューブを下の写真のように入れると,チャンバーにつながる口は2つになります。一方をこれまで通りの内蔵の真空装置に接続しました。そして,もう一方に,拡散ポンプに接続されたフレキシブルチューブを接続します。このようにすることで,内蔵ポンプだけの利用も,拡散ポンプ(粗引き装置も内蔵)だけの利用も可能になります。前者の場合は拡散ポンプの弁を閉じておけばよく,後者の場合は,内蔵ポンプを閉にしておけば良いのです。ちなみに5月9日の記事を参考にして,内蔵ポンプの電磁弁は清掃しておきましょう。


チャンバーの上げ下げ時にスリップ 

 この話題は,下の写真のようなチャンバーについてです。

のチャンバーを開けるときは,中央より少し上の銀色の部分を境に,下側のチャンバーが下がります。また,閉めるときは,上がります。とくに上げるとき,モーターからの動きがスリップして上がりにくくなることがあります。

 スリップの原因は,モーターから,上下移動の機構への力の伝達のところにクラッチが付いていることによります。下のチャンバーが上がっていき,上のチャンバーに付いたとき,クラッチがないと更に上げようとしてモーターや機構を壊してしまいます。下のチャンバーがそれ以上行かないところに達したとき,このクラッチが働き,モーターの動きをスリップさせているのです。しかし,古くなるとクラッチが劣化して,最後まで上がる前にスリップしてしまうのです。

 下の写真はチャンバーの下のカバーを外した内部です。クラッチは,この写真の中央部分の銀色の円柱形のところにあります。これをある程度締めるとスリップしにくくなります。

しかし,末期的になるとそれでもうまくいきません。クラッチの中には複数のクラッチ板が入っています。下の写真は劣化して外したクラッチ板です。古くなったらメーカーから手に入れて交換しましょう。


K熱電対をR熱電対に替える 

 K熱電対(クロメルアルメル)の代わりにR熱電対(白金ロジウム13%)に替えると1000℃以上の制御に用いることができます。K熱電対の場合,使用温度が低いので,フレキシビリティーのある金属のシース(さや)が付いた形で使え,細いOリングを通して外部からチャンバー内に引き入れることができます。R熱電対はフレキシビリティーのあるシースがないので,そのようにはできません。そのため,別のゲージポートなどの穴にハーメチックシールを付けて,そこから測定点まで熱電対を引くことになります。また,K熱電対用の補償導線(青の被覆)は使えません。R熱電対用の補償導線は黒い被覆ですので,別に用意する必要があります。

 保護管を付けたR熱電対の先が露出している場合は,グラファイトダイの温測用の穴に差し込んではいけません。高温で白金と炭素が反応してしまいます。

 このR熱電対は別の使い方ができます。放射温度計での制御の際,下の写真のように熱電対の先端をダイの近くにセットしておきます(もちろん,白金とグラファイトが接触しないようにしましょう)。放射温度計の場合,SPS終了後,冷却する際600℃以下になると温度がわかりません。こんなとき,温調器の入力設定をR熱電対に切り替えると,ダイの近くにセットしたR熱電対の温度を見ることができ,真空を解除してチャンバーを開くタイミングを知るのに便利です。


記録装置が古くなったので 

 私の所では,SPS装置を購入する際,節約して,記録部は自分で作ることにしました。PC9800を用いたり,DOS/V機を用いたり,その時々のパソコンの時流に合わせて変えてきました。SPSメーカーでもOSが変わるたびに対応に苦労しているようです。

 ここで自分で簡単に置き換えることができ,PCのバージョンの変化にも依存しない方法があります。それは,データロガーを用いることです。我々の使っているデータロガーの写真を下に示します。機械の上部に1~10番までの入力端子があり,10種のデータを同時に記録することができます。ここでは,1番から7番まで用いています。また,SPSの際には1秒間隔でサンプリングしています。


KP-1000Cに替えたら記録出力が1/10になってしまった。

 KP-1000Cに替えて,放射温度計で温度を測定しながらSPSをしたところ,記録出力が1/10になってしまいました(他の温度センサーでは未確認です)。これは,KP-1000Cの設定が4桁になったことと関連しているようです。この対策は,以下のようにして解決しました。

 まず,KP-1000Cの設定画面をMODE 7にします。

そして,TRANS SCALEの表示になるまで,SELボタンを押します。ここで00000~20000になっていることがわかります。これが初期値です。

20000の方を2000にします。

 これで,記録出力は従来(KP-1000のとき)通りになりました。この設定は,温度センサをの設定を変更すると初期値に戻ってしまいます。再度放射温度計の設定にしたときは,再設定しましょう。


KP-1000をKP-1000Cに入れ替える

 先にSPSの温調器KP-1000(チノー)が具合悪くなってきたので,後継機のKP-1000Cに入れ替える話をしました。後継機は互換機ではなく,端子が異なります。また,一口にKP-1000, KP1000Cと言ってもいろいろなバリエーションがあり,正確な型番を指定しなければなりません。SPSに使われているKP1000はKP1130B37です。後継機のKP1000CはKP1030C037-G1Aです。

 先ず,下にKP1000の端子図を示します。

 下はKP1000Cの端子図です。

 このように,両者の端子は異なっています。KP-1000から取り外した電線は,KP1000Cの同じ機能の端子につなげば良いのです。下にその対応表を示します。

たとえば,新しいKP-1000Cの2番にはKP-1000の2番につながっていた電線2+と3+をつなぐことになります。これで,昨日示したような便利な機能も使えるようになります。


温度コントローラーの交換

 先に,温調器の電池切れの話をしました。また押しボタンスイッチも強く押さないと反応しないこともありました。そういう訳で温調器を交換することにしました。これまで使っていたものの電池はすでに交換して働くようになっているので,これは電気炉の制御用に使う予定です。交換用に新しいものを探しましたが,チノーのKP-1000はすでに生産中止となっています。後継機として,KP-1000Cがでています。下に両者の比較を示します。

新しい方のKP-1000Cではいくつかの変更点があります。下の写真に示すように,KP-1000Cではボタンが光ります。設定値が4桁から5桁になりました。表示温度も1℃ステップから0.1℃ステップと精度が上がりました。この桁数の増加は,これまで慣れている人にとっては1000℃を10000℃と誤って設定する恐れがあるので,注意が必要です。

 さらに,一番左のボタンに“<”が加わりました。これは便利です。これまで,設定時,次の項目に移る際“>”で行っていましたが,行き過ぎてしまった場合,“>”をどんどん押して1巡させなければなりませんでした。

 旧型と新型の温調器では背後の端子が変わっていますので,これまで通りに結線すれば良いわけではありません。古い配線を,新しい温調器にどのように接続すればよいかは,次の記事で示したいと思います。


SPSの温調器KP-1000のエラーメッセージ:電池切れ

 SPS装置を購入して何年か経つと,温調器に下のようなメッセージが出て(表示部は組み合わせです)使えなくなることがあります。

これは,温調器に内蔵されている電池が切れていることを示すものです。内蔵の電池は,温調器が電源から切り離されたときでも設定値を保持するためのものです。この内蔵電池は5年から10年の寿命と言われています。


プリント基板に半田付けされた電池を外す必要があります。半田ごてを当てて半田を融かしながら曲げられている脚をまっすぐにして引き抜きます。融かしながら小さいマイナスドライバーを挿し入れてまっすぐにします。熱しすぎるとプリント配線の銅箔がはがれますので気を付けましょう。半田吸い取り器を持っているとやりやすいでしょう。

(この資料は富士電波工機様からいただきました)


しばらく使わないでいるとチャンバーの真空が破れて開いてしまう 

 SPS装置のチャンバーは,使用後,閉じて真空にしておきます。しかし,何日か経ってSPS室に来てみると,真空にしてあったはずのチャンバーが開いてしまっていました。使用中には,必要な真空度が得られ,どこか漏れている様子はありません。

 この理由は,チャンバーから排気装置へ接続されているところの電磁バルブの漏れによるものです。そこのところを模式的に描くと下のようになります。

真空ポンプのバルブ(Magnetic valve)を閉にし,真空ポンプをOFFにするとLeak valveが開きます。もしも,Magnetic valveに漏れがあると,

Leak valveにより大気圧になったMagnetic valveの右側から空気がチャンバーに入っていってしまうのです。SPS動作中は,真空ポンプが働いているので,Magnetic valveに漏れがあっても,空気は入っていきません。したがって,動作中は「漏れがある」という状況には気づかないのです。

 それでは,どうしたら良いでしょうか。下の写真はMagnetic valveです。真空ポンプとチャンバーの間に入っています。

中央部右側の大きな六角の部分を大きなスパナ(モンキースパナが便利)で左に回すと分解できます。

分解したところです。右から六角ねじ,バネ,弁となっています。バネが入っているので,開くとき,バネを飛ばさないようにしましょう。黄色の矢印部分にカーボンが付着して弁がきちんと閉まらなくなるのです。黄色の矢印部分のOリングをきれいに拭きましょう。そして,元に戻せば,このプロブレムは解決です。

(この情報は,富士電波工機様よりいただきました)